留学日記アーカイブ:日本とアメリカの歯科治療の違いとは何か

4年前、留学中に書き留めていた留学日記を再掲します。

2013年1月28日

日本とアメリカの歯科治療の違いとは何か

ちょっと大げさなタイトルですが、私見を少し。アメリカの歯科治療はご存知の通り大変高額だ。NYUではそれでもニューヨークの一般開業医に比較し2割程安い。国民皆保険がないのが前提なので、当然治療方法の決定は患者さんの予算を聞いた上で進めるのが前提となる。


基本料金は以下の通りだ。抜歯;$105 根の治療;$600~700 被せ物;$1,400 総入れ歯、部分入れ歯;$1,400 インプラント;$2,700 歯周外科;$400

一つ例をあげてみたい。患者さんは50代女性の方。右奥は下の臼歯しかなく、さらに挺出し上の歯槽堤に咬み込んでいて咬合高径は低下、前歯は切端咬合気味で上はチップしており上顎歯冠高径が2/3くらいしかない。左奥は下がなく上は重度ペリオで歯根が全部みえているくらい挺出していて動揺、炎症ありでホープレスの状態。


歯がダメになっていく度に治療せず放置しておかげで、結局咬み合わせも悪くなり、咀嚼障害が起こり今回意を決して来院したとのこと。他は特に問題もなく診断は済み(長くなるのでここでは省略)、治療方法の話になった。


この患者さんの場合、予算は$5,000ドルくらい。場合によっては$10,000くらいという話だったので、それに沿ってオプションを考えてみた。この予算だとインプラントや歯周外科の選択肢はなく入れ歯になる。あとはどこまで根の治療をして歯を残せるか、もしくは抜歯となるかは予算次第だ。


結局、残った歯をすべて抜歯(15本)して治療用の仮の入れ歯を3ヶ月入れてもらって、最後に完成義歯を入れるだけで$5,000に達してしまったので、そのオプションで治療することになった。


おそらく日本で保険治療をするなら、少なくても右下奥歯、左下犬歯の根の治療、前歯の被せものを作り、上下とも部分床義歯になっているだろう。費用は数万円(の1割から3割)が患者さんの窓口負担(たぶん2、3万円)。アメリカでこのような「出来るだけ歯を残す」オプションを選択した場合、$10,000はかかる。

ちなみに、この患者さんはまだ$5,000払えるから治療出来るが、実際のところ補綴科にコンサルに回ってくる患者さんで実際の治療に至るのは、全体の20%くらいだと思う。つまり、割安な大学病院でさえ治療を受けられない患者さんがそれだけいる、ということ。これがアメリカ歯科医療の現実だ。


ところで、他のレジデントが自分の後に、下顎全体がペリオで歯槽骨支持は30%くらいしかないケースを、ファカルティに相談していた。


彼は全部抜歯して、インプラント支台のオーバーデンチャーと提案していたがファカルティから、「こういう状況になるに至った原因をまずは考えなさい。その後で一つ一つの歯をきちんと診断して、さらにインプラントだけではなく、すべての治療オプションを提示するように。そのトレーニングのためにここで学んでいるんだから。」とアドバイスを受けていた。


アメリカの歯科医療→残せそうな歯もすぐに歯を抜く、日本の歯科医療→どんな歯も出来るだけ残すというイメージがあるかもしれないが、歯科の治療に日米の違いはない、と思っている。

つまり、適切な診査と診断、治療オプションの提示、診断を下すための知識と経験、そして実際の手技。治療のために考えなければいけないことに、日本もアメリカも変わりはないないということだ。


もし違いがあるとすれば、患者さんの希望(経済状況や嗜好)、社会保険のシステムの制約、術者の技量によって治療のオプションが異なるだけ、ということになるのではないだろうか。


後記  2017.1.31
アメリカの臨床教育システムは、日本に比較して良くも悪くも大雑把。最低限のルールは決められていますが、現場の指導医、歯学部生に与えれている裁量は非常に大きいのが特徴です。ベースとして、歯科治療への患者さんの理解、尊敬があるからでしょうか。日本で、歯学部生が、ライセンスを持たない歯学部生が大学病院で治療を行うとなったら、患者さんはどういう反応を示すでしょう。

自分がその患者の立場になったら、、と想像してみてください。

日本でも、アメリカのようなハイレベル、世界標準と呼ばれる歯科治療を実現するには、そうした患者サイドの理解、協力も必要不可欠であると言えるかもしれません。