3年目、最終セメスターの生活


今日はなんと前歯審美の患者さんの犬歯が破折していることが発覚、治療を終れないことが判明した。前回ブリッジをはずした時点で、残存している歯根壁が2mmギリギリだったので嫌な予感はしていたが、残念ながら悪い予感というのは当たってしまうものだ。。

結局ペリオの一年目のレジデントを呼んで、インプラントのアポを取ることに。診査診断、ワックスアップ、仮義歯作成、仮歯の調整、これまでの努力がすべて水の泡になってしまったわけだが、これも補綴科レジデントの宿命だろうか。。ただここでへこたれていても何も変わらないので、他の患者のアポを入れ気合いの入れ直し。ここまで来たら、ひたすら前進あるのみ。。

診療の方も終わりが近づいてきている。現在進行中のケースは以下の通り。
総義歯(オーバーデンチャー)3ケース
部分床義歯(オーバーデンチャー)3ケース
フルマウスリコンストラクション 3ケース
前歯審美 3ケース
インプラント補綴 3ケース
これにもれなく技工がついてくる。

授業も最終セメスターまでびっしり埋まっている。
月曜 Journal Club
火曜 Aesthetic dentistry(隔週でペリオと合同プレゼン会)
木曜 Lit review
金曜 Lit review for occlusion

木曜日のLit reviewはようやく「咬合」まで終了した。これで300本中、270本あまりを読了したことになる。それにしても今週は読み応えのある咬合関連の論文が多かった。

全調節性咬合器、半調節性咬合器の比較、ベネット角、ヒンジアキシス、アンテリアガイダンス、イミディエイトサイドシフト、ナソロジー、オクルーザルスプリント等々。。これぞ補綴学、咬合学という内容のオンパレード。

咬合の論文を読むようになってから、特に咬合器や模型の取り扱いに(つまり咬合に)細心の注意を払うようになってきた。咬合器のメカニズム(限界を含め原理原則)が分かるようになってくると咬合再構成が楽しくなってくる。咬合の原理原則と言えば、Condylar incllination、 Cup height、 Cusp inclinationの関係性等で、確かに難解でとっつきにくテーマであることは間違いない。

ただし歯科治療を行う上では最重要項目であり、理解しないと始まらない、と今となっては納得できる。かといって、理解し自分のモノとして知識を使いこなすために手っ取り早い方法などなく、繰り返し原書を読み直しながら少しずつ理解していくしかない。補綴学、強いて言えば学問に王道はないのである。

マイクロスコープを使って形成するだけが、精密歯科、というわけではない。どれだけマージンをキレイに合わせて形成したところで、歯牙の形成デザインや材料学、咬合の原理原則が分かっていなければ、長期的な予後は期待出来ない。そうは言ってもたしかに、歯科医師は道具や材料に走りやすいのは分かる気がする。特にマイクロスコープなんかは見栄えがいいし、患者さんにも視覚に訴えられるだけに差別化しやすいのも確かだからだ。

こちらに戻ってからはこんな流れで大体、朝8時の授業から深夜まで図書館に引きこもりボード試験の勉強に追われている。おそらくこの3年間の中で一番忙しい時期で、とにかく一日がとてつもなく長い。。浪人生の時も、再受験の時も14時間くらい、働き始めてからも診療の傍ら大学院で研究、英語の勉強を並行してやってきたが、もうこれからの人生でこんなに勉強することもないと思うとなんだか寂しいような(というのは冗談で、あと3ヶ月でこんな生活も終わりだと思い、最後の力を振り絞っているというのが正直なところである)。

ボート認定医試験は一つ一つ難しいことを問われるわけではないが、全範囲(解剖、材料学、総義歯、部分床義歯、インプラント補綴、顎顔面補綴、薬理、統計等)網羅し、理解していないと答えられないからやっかいだ。週末は一日12時間かけて150問をこなした。それぞれ回答の根拠となる論文を読みながら、しかも英語なので、なかなか進まない。

只今、土曜日夜中の深夜一時を回ったところだが、まだかなりの学生が図書館に残っている。噂に違わず、こちらの歯学部生は本当によく勉強するし、実習もきっちりこなす。ゴール(実習のノルマと試験の点数)だけが与えられてファカルティが懇切丁寧にテストや実習の指導をしてくれるわけではなく、最終的には各自の自助努力にかかっている。それにしても毎日テストと実習にずっと追われている。アメリカで最も人気がある職業と言われる歯科医師の社会的地位はこうした歯学部生時代の弛まぬ努力があってこそものであり、人々から尊敬を集めるのも、その裏付けがあってのことなのだろう。

図書館からはエンパイアステイトビルが見える


深夜2時の図書館の風景