レクチャー;ABP Review Course Vol.3 Dr. Lernerによるプレゼンテーション

金曜日のレクチャーは、Ameican Board of Prosthodontics Review Courseである。隔週で論文のレビューと補綴専門医の中でも 認定医、すなわちBoard試験と呼ばれる認定医試験に合格したFellowによるプレゼンテーションがある。認定医試験受験の準備に向けた授業であり、ファカルティによるプレゼンテーションは実際ボード認定医試験に用いたケースで行われる。

今日は、ニューヨーク州ロチェスターにあるEastman Dental Centerの補綴科レジデンシーを修了し1999年にボード試験に合格、現在はマンハッタンで開業しているDr. Lernerによるプレゼンテーションだった。内容はBoard Exam Part2 Fixed Prosth and removable partial denture、固定性補綴と部分床義歯のコンビネーションによる治療について。

補綴治療の中でも診断、治療、手技、技工など包括的なスキルや知識が問われ、技工作業も複雑であり、パート4まである認定試験の中で最も難しいセクションと言われている。とりわけDr. Lernerのケースは、上顎、インプラント支台のインプラント補綴、下顎は、遊離端部分床義歯とエンド処置歯に固定性ブリッジのコンビネーションというデザインで補綴物が上下でセットされており、非常に難易度が高い。さらに上顎はインプラントによる固定性の補綴物である。

1999年当時の治療であるから、このケースをボード試験に提出することがいかにChallengingであったか推し量れる。見方を変えれば、それだけ自分の臨床に揺るぎない自信を持っているということだろう。実際、彼の補綴臨床に関する知識やスキルはさすが補綴専門医と思わせる素晴らしいものだった。



Dr. Lernerの持参した一つ一つの模型をみても、形成、印象、補綴物、どれも文句のつけようがないものばかりである。一通りプレゼンテーションが終了し、引き続き行われた質疑応答が行われた。彼の幅広い論文のレビューに裏打ちされた多角的な分析には説得力があり、豊富な経験が感じられ、技工作業や治療方法において多様なオプションを持っている様子が伝わってきた。

それにしても、よくここまで一つ一つデンタル、パノラマ、その他プレゼン用の資料や模型、技工物などをステップ毎に集め、保存しておいたものだとただ感心してしまう。





プレゼンの後、レジデントからは以下のような質問が投げかけられた。

1.何故上額のインプラント補綴、フルスプリントはどうやって作製したのか?セクション毎に作製しソルダリングしたのか?メタルがみえているが、ポーセレン焼成後にソルダリングを行ったのか?もしそうであれば、その理由は何か?

2.下顎の前歯は頬側マージンが特にフェザーエッジで形成されているように見受けられるが、これは意図的なものか?シャンファーやショルダー、ベベルとの組み合わせを状況に応じて変えているのか?変えているとしたらその判断基準は何か?ベベル、フェザーエッジだとしたら、マージン部位はメタルでフィニッシュしたのか?

3.何故下顎6前歯はスプリントしたのか?何故部分床義歯にはアタッチメントを使用せず、クラスプを用いたのか?審美性は考慮しなかったのか?

4.上顎のインプラントは最終補綴に移行する前は、どのような仮歯を入れていたのか?

5.もし今、この患者さんを治療するとしたら、どのような治療オプションを選択するか?ジルコニアは?インプラントはこの本数でこのデザインを選択するか?

6.最終補綴物の作製に移った際、どうやって仮歯の咬合高径を維持するのか?

7.15年前のこのケースの現在の状況を教えて欲しい。リペアは行われたか?

8.#21、22の根管治療は問題ないのか?エンドの予後が悪そうにみえるが。

アメリカの専門医制度も良い面ばかりではなく、悪い面もあり問題が生じることも多いが、どこの国でもどのような歯科医療、保険システムであっても、真面目に真摯に臨床に取り組んでいる歯科医師はいるものだ。

世界一と言われるアメリカの歯科専門医制度も、システムは効率的に何かをオペレーションするためのシステムに過ぎないのであって、最後はそこでの学びやその制度を生かしていく補綴科専門医、つまり最後には「個」の資質と努力にかかっているのではないか。

実際Dr. Lernerの発言や佇まいからは補綴臨床、自分自身の仕事に情熱を傾け続け、確かな経験を積み重ねてきた者だけが放ちうるオーラで溢れていた。自分が目指すべき臨床はここにもある、そんなことを感じさせてくれた超一流の専門医によるプレゼンテーションであった。