抜歯即時義歯

抜歯即時義歯。

抜歯即時インプラント埋入なら日本でもおなじみかもしれないが、即時義歯を経験したことがある歯科医はあまりいないかもしれない。


この患者さんは、上下合計10本以上の歯を一度に抜歯し、即時に入れ歯をセットし、その後三ヶ月待ち、インプラントを2本下顎にセットし、入れ歯を新しく作ることになっている。

上下10本以上、同時に抜歯して、同日にインプラントをセットする、ということは日本ではなかなかお目にかかれないケースだろう。




即時義歯は、何と言っても顎位、中心位(CR)の設定が難しい。現存の顎位、習慣性の筋肉位や歯の噛み合わせた位置(CO)で患者さんは慣れているし、ほとんどの場合、中心位の位置がCOと一致しないケースである。


たいがい即時義歯にする患者さんはほぼ例外なく重度な歯周病に罹患していて、それが原因で全抜歯の上、義歯をセットすることになるので、なおさら顎位の安定が得られない。患者さんが、中心位を採得する時に、どこで咬んでいいのか分からないことが多く、一般的には前咬み傾向にある。


この患者さんの場合も、即時義歯をセットした時は、正しい顎位からはズレた位置で義歯がセットされてしまった。またこの患者さんは骨格性のⅡ級、上顎前歯部が少し前突気味なので、人工歯の排列時に、アンテリアガイダンスと審美、スマイルライン、発音に特に注意が必要だ。



早速義歯の作成を開始し、抜歯後義歯をセットし、咬合調整、リライニングをし、抜歯窩の治癒を待ってインプラントを埋入することになっている。骨の完全な新生には6ヶ月必要であるが、ここでは抜歯三ヶ月後インプラントを埋入してよいルールだ。


そこで、三ヶ月後、CT撮影用のステントを即時義歯から作成し、インプラントの埋入位置をおおよそ決定し、埋入オペを行うことになった。幸い、下顎前歯部の骨量は十分、骨質も良好で、骨の移植などは必要なかったので、私自身はオペを行うことにした。


オペ時はリビアから来たインターナショナルコースのアシュ、歯科助手のジェニファーにアシスタントについてもらった。オペそのものはCT撮影用のステントを用いてCTを撮影し、十分な骨量を確認出来ていた通り骨量、骨質とも問題なく、オペ中もトラブルも起こらず、滞りなく1時間程で終了した。


今後は三ヶ月待って、ファイナルの総義歯作成のため、型を採ることになる。一気に歯を10数本抜歯してしまうのは、いかがなものかと初めの頃は感じていたが、実際やってみると総入れ歯を支える顎堤がしっかり残るし、インプラントのオペも含め治療期間は10ヶ月ほどで済んだ。


何年も残せるか分からない歯を一本二本残すために費やす時間、費用、やり直しの可能性なども含めて考えると、なるほど合理的といえば合理的な治療方法だと考え直すようになっている。ただ日本では患者さんはもちろん、歯科医師側にもこうした治療が受け入れらるとは思えない。


場所さえ選べば良質な医療が廉価で受けることができる日本と、全か無かのアメリカの歯科医療。どちらが良い悪いの話ではなく、社会のシステム、医療保険のシステムが治療方法のオプションを限定しているのだと改めて知ることになった。