補綴科レジデントの一日

補綴科レジデントの一日

レジデント1年目の朝は毎日8時の授業から始まる。月曜日の今日は歯科材料学(Biomaterial)の授業。講師は8階のマテリアルの講座を取り仕切っているAssistant Prof.のDr.P. 普段は軍隊のように厳しく講座の学生達を指導している彼だが、今日は臨床系のレジデント向けの授業というのもあって「今日の授業はつまんーねぞー」と冗談をいったりして、やけにフレンドリーだった。授業内容は宣言通りの内容だったので省略。。

月曜日午前中の10〜12時は隔週で、コンサルといって新患や急患を担当することになっている。一人目の患者さんは5年前に作った下の入れ歯が割れたので修理して欲しいといって来院。

口腔内を調べてみると上顎前歯6本がクラウン、両犬歯支台の金属床RPD、下顎は両犬歯部のインプラント2本を支台としたレジン床のオーバーデンチャーで、義歯に装着されたロケーター部位から真っ二つに割れていた。もうこの記載を読んだだけで大体お分かりかと思うが、完全に義歯の設計(診査診断)に問題があって義歯の破折が起きている様子が伺えた。

下顎は2本のインプラントがメディケイドの患者さんには義歯作成が無料で提供されているので、こうして下顎の義歯だけが破折して来院する患者さんが本当に多い。患者さんに問診すると、予想通り上顎は10年程前に作成し、5年間に下顎を総義歯にするタイミングで前歯6本を抜歯してインプラントを埋入してオーバーデンチャーを作成したそうだ。保険制度の矛盾、限界がアメリカにも存在するということなのかもしれない。

こういう真っ二つに割れたケースは経験上まず再作成しないとまた割れる気がしたが(そもそも設計に問題があるんだから)、制度上6年間新義歯作成は出来ないので、今日は修理のみ行った。技工士さんがラボに常駐していて修理の仕方を教えてくれた。技工士さんがラボにいるって本当に心強い。

2人目の患者さんは3年前に上下20本ほどPFMで補綴したフルマウスのケース。右上6のポスト破折による脱離、犬歯、中切歯のポストから脱離。昨年12月にも同じ箇所の脱離で来院されたが、今回は歯肉の炎症、歯に動揺がありリセット出来ない。左上の中切歯、犬歯の連結部位も動揺している。

レントゲンを撮り、脱離したポーセレンクラウンの咬合面をみてみると、ファセット(圧痕)がくっきり残っていて、原因は不明だがブラキサー(歯切しり)している可能性が考えられる。歯根膜の拡大もみられた。

患者さんは春からフロリダに移住する予定だと言うし、一体誰が治療を引き継いでいくのだろうか。。いずれにせよ今日の2症例からだけでも診査、診断の重要性が思い知らされた。診査診断、予知性に基づく治療計画の作成、言うのは簡単だが、実際は相当なトレーニングを意図的に積んでいかないとなかなか身につけるのは難しいというのが実感だ。

結局コンサルが長引いてしまい、その間ペリオ、矯正が必要な患者さんの治療計画について、それぞれのレジデントと打ち合わせを同時進行しながら、10分くらいでランチを済ませて13時半から午後のセッション開始。

午後の患者さんは2人。1人目はフルマウスの治療が必要な患者さん。アッパーウエストからやってきた80過ぎのこの方、魔女の帽子のように大きいヒョウ柄の帽子をかぶっていて、診療の合間はずっと携帯で仕事の打ち合わせ、手帳はぎっしり予定で埋まっている。質問や注文がやけに細かい。ここに来る前に治療を受けていた歯学部生の腕が良かったから助手につけてもいいかと無茶な要望をしてきたり、お前はどこでどんな治療を今までしてきたんだとか遠慮なしに品定めしてくる。ニューヨークの土地柄か、患者さんは個性的な人が本当に多い。

個人的にはコーヌスが最適のケースだと思うが、アメリカではコーヌスをやらないらしく、技工を出来る技工士もしないので、フルスプリントになるかアタッチメント義歯になりそうだ。今日は型を採って、口腔内写真を撮って、フェイスボウに装着して終了。インプラントをしたくない、審美優先だから義歯もクラスプがみえるのが嫌だと言われると中々難しいが、来週治療計画について説明することになっている

もう一人は、上顎インプラント支台のオーバーデンチャー、下顎両側臼歯部欠損、前歯1歯欠損の患者さん。臼歯部はインプラントで問題なかったが、前歯をどうするかファカルティと相談。左側隣在歯が捻転していてブリッジが出来ないから、部分矯正をしてからブリッジにするか、インプラントにしてみてはどうかと提案してみた。

しかしここでは部分矯正の治療費を設定しておらず、矯正の費用は最低でも3000ドルかかるとのことだったので、矯正をあきらめ、患者さんの同意を得て径の細いインプラントをそのまま埋入することになった。ブラケットをつければ済むのに、残念。ここでもシステムの壁に阻まれる。。

これらの診察の合間に今日は、ペリオのレジデント達と共同で進めている患者さんの治療計画の相談が3件あり、その患者さんのワックスアップや治療計画書の作成、さらに新患の治療計画の概略を説明して欲しいとまた別のペリオのレジデントから連絡があり、ペリオの講座でディスカッションしたりしていたら(これまたザ・ペリオの患者さんだった)、夜まであっという間に過ぎてしまった。結局終わらずウチに帰って今、残業中である。

明日もまたペリオのレジデント2人と治療計画についてディスカッションする予定。今月だけでペリオからの紹介が3件、お蔭さまで商売繁盛(?)だが、彼らとの共同作業の中で、何が大切なのか気付くことが沢山あり、非常に勉強になっている。ペリオのレジデント達との仕事はまた別の機会に書いてみたい。

もう少し一人一人の患者さんの状態について詳しく話せるとさらにこの楽しさが伝わるのだろうけど、それはまた一時帰国した時のお楽しみということで、しばらくお待ち頂ければと思う。

こんな感じで毎日、自分自身の成長を実感できて、患者さんからも頼りにされて、色々なプレッシャーと戦いながらも、幸せを噛み締めながら楽しくやっております。